雑記

コーヒーのおすすめ本「コーヒーの科学」

コーヒーをより元気に育てるため、勉強を兼ねて読んでいるコーヒー本について紹介していきます。今回は「コーヒーの科学」を。

副題に『「おいしさ」はどこで生まれるのか』とあるように、コーヒーのおいしさというものを科学的な視点で明らかにしていこうという内容の本です。

  • コーヒーの木がどういう植物で、
  • コーヒーの実にはどのような成分が含まれていて、
  • コーヒーを美味しいと感じるための「成分」にはどんなものがありそうか。
  • それら成分は、「精製」「焙煎」「抽出」過程においてどう変化していっているのか。

というように、コーヒーの実が作られて飲むまでの各工程を「成分」を中心にしてできるだけ科学的に捉えようとしているところにこの本の特徴があります。

コーヒーのおいしさを科学的に捉えるとは

コーヒーの美味しさを構成する要素を示すひょうコーヒーの美味しさを構成する要素を表す表。何が何を内包しているかの関係性がわかりやすい。

科学的に捉えようとしていることがよく示されているのは、コーヒーの香りを化学成分から再現するという試みを何度もされているところでしょうか。

たとえば、ゲイシャに感じる柑橘類のような香りは「モノテルペン」という成分ではないかと推測しています。これが当たっているか確実なところは分かっていないようですが、「ゲイシャらしい香り」を科学的に再現してみようというところに面白さを感じますし、そういう視点というか再現できる可能性もたしかにあるのかもなーと感心しました。

ゲイシャに限りませんが、コーヒーの香りを表現するときに「アフリカの”土地”が育んだ香り (テロワール)」というようなほわっとした表現をすることがありますよね。確かにあの表現に違和感を感じることはありました。「土地」って言っても、同じ国の中でも土質は様々だよな、と。

それが、土質や精製過程などの環境が影響してこの成分が多くなったからこの香りになっている、と言えたほうがすっきり理解できますよね。いや、そういうことだろうと薄々は思ってましたが、それを実際にこの本において試されているということです。

  • コーヒーの実にどのような成分が含まれると美味しくなるのか、という生産者の視点
  • その成分を焙煎によりどう変化させるとより美味しくなるのか、という焙煎士の視点
  • 最終的な液体として、成分をどの抽出して形作ると美味しくなるのか、というバリスタの視点

と、コーヒーに関わるすべての工程の方にとって非常に有益ですね。

コーヒーの美味しさに強く関わる「発酵」

コーヒーの発酵過程における菌や酵母の増減を表すグラフコーヒーの発酵過程における菌や酵母の増減を表すグラフ。わかりやすい。。

この本のなかで特に熱がこもっているように感じたのは、第五章おいしさを生み出すコーヒーの成分の後半『「モカの香り」の謎に迫る』から章の最後の「発酵をコントロールする」までの、コーヒーの発酵に関するあたりです。

「この香りの正体はいったい何なのだろう」……帰途につく私の頭の中に、前から薄々感じていた考えが湧き上がっていきました。それはモカ香と、ある別の匂いの共通点についてです。焙煎前の生豆にはときどき「発酵豆」と呼ばれる欠点豆が混じっています。特に湿式精製で現れやすく、水槽に浸ける時間が長すぎたり、用いた水が汚れたいたりして、発酵が進みすぎたときに多く見られ、異臭や酸っぱさの原因になるため取り除かねばなりません。
〈略〉
この発酵臭の原因はイソ吉草酸エチル (3-MBEE) などのエステル化合物だと言われています。熟したフルーツやワイン、花などを思わせる甘ったるい香りを持つ成分で、凝縮されたモカ香はその匂いとよく似ていたのです。

――『第5章おいしさを生み出すコーヒーの成分 第14節「モカの香り」の謎に迫る』より

コーヒーの精製過程における「発酵」により特別な香りが生まれているという話は、世界のコーヒー生産においては当たり前の話になりつつあり、沖縄のコーヒー生産者たちの間でも少しずつ会話にあがるテーマになっていますが、2016年よりも以前に、コーヒーを飲みながらこれまでの知識と掛け合わせて推測し、それを確かめてやろうするわけです。

いや、コーヒーへの狂いっぷりが素敵ですよね。

そしてその後の節「コーヒーは発酵食品」から「発酵をコントロールする」においては、湿式 (ウォッシュト) と乾式 (ナチュラル) において、どのような菌が発酵にどのように関わっていそうかを過去の文献などから推測し、ゆっくり乾燥させる乾式 (ナチュラル) が特に強い香りをつけるのではないかとされています。

コーヒー生産者になろうとしている立場からするとこのあたりの内容は非常に興味があり、ありがたい情報です。

なにも知らないと、ウォッシュト精製という過程はただ「果肉 (ミューシレージ) を剥がすため」だけの作業になってしまいます。ナチュラル精製を「果肉を乾かしてから剥がす」というただの作業として理解していたらとんでもない失敗をするわけです。おそらく。

それらすべて手探りになってしまうようなところを、この本から「科学的な視点から見る」という貴重な手がかりを得ています。

自分オリジナルの香りがするコーヒーを作りたい

焙煎時の豆の様子を示したイラストイラストや図が豊富で助かります。こちらは焙煎時の豆の様子を示したイラスト。

そして第五章は下記で締めくくられています。

近年のコーヒー精製法の発展は正しく「発酵」をコントロールしようとする取組みだと言えるでしょう。生産者たちが、さまざまな香味を生み出す可能性を持った、多様性のある生豆を作る時代はもうそこまで来ています。

――『第5章おいしさを生み出すコーヒーの成分 第16節発酵をコントロールする』より

いや、元気出ますね。やったろうと気分が盛り上がります。

自分が育てたコーヒーが、自分オリジナルの香りがしたらどんなにうれしいでしょうか。それにはどうやら「発酵」をより勉強して、生産現場としても科学的に試していく必要がありそうです。

考えを巡らしてコーヒーを飲むのが好きな方におすすめ

コーヒーの美味しさとはどんなことなのか?という問いに対して、この本に科学的な回答があるということではありません。味、香り、精製、焙煎、抽出という各条件における科学的な見方を示してくれているということですね。

自分が感じているコーヒーの美味しさってなんだろう?といった考えを巡らすこと自体が楽しい方には本当におすすめの本です。

自分は正直、科学も化学も不得意なので眠くなってしまう難しすぎる内容もあるのですが、著者が基本的にコーヒーに狂ってらっしゃるのでその狂いっぷりに圧倒されるのを楽しみながら読めました。

読んでから、「あー、このルワンダのナチュラルはこんな発酵具合なのかもなー」なんて推測しながら飲むのが楽しいわけですよ。おそらく、ここまでこのブログを読まれた方も同じ、ですよね。どうぞ、本を読みながらコーヒー飲みましょう。